家族信託の手続きを自分でできる場合があります。
しかし専門的な知識が必要なので、時間と手間がかかりますし、
間違った方法で手続きをしないように慎重に行わなければなりません。
今回は、家族信託の手続きを自分で行う場合のメリットとデメリットなどについて解説いたします。
この記事の目次
家族信託を自分でするメリット
費用の負担が少ない
家族信託を自分で行う最大のメリットは費用を抑えることができることです。家族信託を専門家に代行依頼する場合には、依頼専門家によって変わってきますが、報酬として30~100万円、さらに信託内容によっては数百万円かかる場合もあります。
自分で行う場合には、専門家に支払う報酬は一切かかりませんので、
私文書を公正証書にしたり、登記にかかる実費のみの負担となりますので、10万円程度で済みます。
他人にプライベートな情報を知られない
もう一つのメリットは、家庭の財産状況などプライベートな情報を他人に知られることがないことです。
専門家には守秘義務がありますので、提供した情報を他の人に漏らされることはありませんが、
他人にプライベートな情報を知られることに抵抗がある人もいるかと思います。
自分で家族信託の手続きを行うことで、この問題を解決することができます。
家族信託を自分でするデメリット
家族信託の手続きを自分で行うことは、メリットよりもデメリットの方が多い場合があります。
家族信託が原因で相続トラブルが発生
家族信託を行ううえで最も重要なのは信託内容の計画です。
家族信託の計画は単に信託する財産や、受託人、受益人を決めれば良いというものではありません。
将来親御さんが認知症になったり、相続が発生した時のことを備えて、様々なリスクを考慮しながら決めていく必要があります。
ここを疎かにしたまま家族信託を行うと、後日トラブルが発生する可能性があります。
家族信託について様々な事例を経験した専門家であれば、将来発生する可能性があるトラブルを予測したアドバイスを受けることができますが、自分で行う場合には、家族信託についてのアドバイスを受けることができません。
家族信託の手続きに不備がある場合気が付きにくい
最初から最後まですべての手続きを自分で行った場合、公証人役場や法務局で書類の不備を指摘してくれますが、契約の細かい内容や設計などについて誤りやリスクを指摘してくれません。
信託登記が難しい
家族信託の登記は、所有権移転登記と同時に信託登記も行わう必要があります。
相続登記などの一般的なものに比べて難易度が高く、特に信託目録の作成は司法書士でも苦労する場合があります。
家族信託が始まった後の財産運用などが難しい
家族信託は手続きが完了した時から、家族信託が始まります。
受託者は信託財産をただ見守っておけば良いわけではなく、帳簿を付けたり財産目録の作成したり、税務署への書類を提出するなど必要な作業がいろいろあります。
どのタイミングでどのような作業が必要なのか、すべて自分で判断することは難しいです。また、不備があった場合や受託人が仕事をしていない場合はトラブルになる可能性があります。
家族信託を自分でする場合に注意すること
自分で手続きを行う場合に、注意していただきたいことがあります。
1年ルールの存在に注意
家族信託には、受託者がすべての受益権を持つ状態が1年以上続くと信託は終了すると定められています。
「受託者=受益者」の状況が1年続くと、その信託は終了します。
(信託法163条2号)
意図せずに信託が終了した場合の問題点は、信託財産が誰のものになるのかということです。信託契約書に信託が終了した場合の信託財産の帰属先が記載されている場合にはその通りになりますが、記載がない場合や指定された人が権利を放棄した場合には、委託者に戻ります。委託者が死亡している場合には相続財産となります。
認知症対策で家族信託をした場合、家族信託が終了して元通りになります。
この状態で、委託者が認知症になると財産が凍結します。
そのため、家族内でトラブルに発展する可能性があります。
また、信託財産の帰属先の指定がなかった場合、遺産分割の対象となります。(信託法182条2項)
(信託の終了事由)
第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
五 信託の併合がされたとき。
六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
九 信託行為において定めた事由が生じたとき。
(残余財産の帰属)
第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。
ネット上のテンプレートは参考程度に
ネット上に家族信託のテンプレートがたくさんあり、専門知識がなくても契約書などの法的な文書をテンプレートに当てはめるだけで簡単に作成できるようになっています。
しかし、すべての項目をテンプレート埋めただけでは、家族信託のために話し合った内容を十分反映することができません。
また、ネットで配信されているテンプレート自体がが間違っている場合もありますので、気を付けてください。
家族信託は専門家に依頼した方が良い理由
しっかりとした信託計画を立てることができる
話し合って信託の計画を立てるということは、家族だけでもできると思います。
しかしこの計画に問題があると、多額の相続税や贈与税の発生、財産争いなど家族間トラブルの発生する場合があります。
専門家に依頼すると、話し合いに同席していろいろアドバイスを受けたり、契約内容に問題がないかチェックを受けることができ、スムーズに財産承継ができるようになります。
手間と時間がかからない。
家族信託の計画を立てた後には、信託契約書の作成、契約書の公正証書化、不動産の信託登記などの作業があります。
契約書の作成方法を調べたり、公証人との事前の話し合い、日程の調整、登記書類の作成と収集など、大変手間と時間がかかります。
専門家に依頼した場合は、公証人役場に一度行く程度で負担がほとんどありません。
家族信託契約をした後も相談することができる
家族信託の手続きが終わった後から、受託者は委託者の意思に従って財産管理を行っていきます。
わからないことや悩み事があった場合は、専門家に相談することができます。
また、家族信託だけではなく、その後に発生する相続などについても専門家に相談することができます。
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