慢性腎臓病(CKD):正しい理解と予防で健康寿命を延ばす

慢性腎臓病(CKD)は日本人の約8人に1人が抱える「国民病」となっています。腎臓の機能が少しずつ低下していくこの病気は、初期には自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー」とも呼ばれます。生活習慣病との深い関連性があり、放置すると透析治療が必要になるだけでなく、認知症や心血管疾患のリスクも高めます。しかし早期発見と適切な対策により、進行を遅らせたり予防したりすることが可能です。この記事では慢性腎臓病の基礎知識から予防法まで、あなたの腎臓を守るために知っておくべき情報をわかりやすくご紹介します。

慢性腎臓病の予防と改善!3つの生活習慣で腎機能を守る方法

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病は、腎臓の機能が長い期間をかけて少しずつ低下していく状態です。具体的には、腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%より少なくなる(GFRが60ml/分/1.73㎡未満)か、たんぱく尿などの腎臓の異常が3か月以上続く状態を意味します。医学的には「CKD(Chronic Kidney Disease)」とも呼ばれています。

病態と特徴

慢性腎臓病の初期段階ではほとんど自覚症状がありません。静かに進行するという特徴があります。そのため、定期的な健康診断や検査による早期発見がとても大切です。病気が進んでくると、むくみや夜間のおしっこの回数増加、血が足りない状態、体のだるさ、息苦しさなどの症状が現れてきます。

主な原因

慢性腎臓病の主な原因には、血糖値が高い病気や血圧が高い状態、腎臓の糸球体に炎症が起きる病気などがありますが、年を重ねることも大きな要因となります。生活習慣との関わりも深く、バランスの悪い食事や体を動かさない生活も発症する危険性を高めてしまいます。

重症度分類

慢性腎臓病は腎機能(GFR)の値によって1から5までの段階に分けられます。段階が進むにつれて腎機能は下がり、段階5では透析や腎臓の移植などの治療が必要になることがあります。また、たんぱく尿の程度によってもA1からA3に分けられ、全体的に重症度が評価されます。

治療

治療は原因となる病気の対応、生活習慣の見直し、食事の管理、薬による治療などが中心となります。重症度に合わせた治療計画が作られ、専門の医師による継続的な管理がとても重要です。段階が進むと、厳しい食事制限や薬による治療が必要になってきます。

慢性腎臓病は早く見つけて早く治療することがとても大切です。定期的な健康診断で腎臓の機能を調べることをお勧めします。

慢性腎臓病のリスク

慢性腎臓病(CKD)は、さまざまな危険因子と関わっています。これらを理解することで予防や早い段階での発見につなげられます。

発症の危険因子

慢性腎臓病の主な発症の危険因子には以下のものがあります:

生活習慣に関わる因子

  • 血圧が高い状態:腎臓への血流が増えて腎臓に負担をかけます
  • 血糖値が高い病気:血管に障害を引き起こし、腎臓のこし分ける機能を低下させます
  • 血液中の脂質バランスの異常:動脈の硬化を進め、腎臓の血管に傷をつけます
  • 体重過多:体の中の代謝に異常を引き起こし、腎臓への負担を大きくします
  • たばこを吸う習慣:血管を縮めたり酸化によるストレスを与えたりして腎機能を悪くします
  • お酒の飲みすぎ:血圧を上げたり代謝に異常をきたしたりして腎臓に悪い影響を与えます
  • 体を動かさない生活:体の中の血液循環や代謝が悪くなります
  • 心の負担:自律神経を通じて腎機能に悪い影響を及ぼします

そのほかの因子

  • 年齢を重ねること:年を取るにつれて腎機能は自然に下がります
  • 遺伝的な要素:慢性腎臓病の家族歴がある場合は危険性が高まります
  • 薬を長く使い続けること:特に非ステロイド性の炎症を抑える薬(NSAIDs)を日常的に使う場合
  • 過去に腎臓の病気にかかったこと:以前に病歴がある場合は再び発症したり進んだりする危険性があります

合併症としての危険性

慢性腎臓病そのものが他の病気の強い危険因子になります:

  • 心臓や血管の病気の危険性:慢性腎臓病の患者さんは心筋梗塞や脳卒中の危険性が約3倍高くなります
  • 動脈硬化が進むこと:腎機能の低下による代謝の異常が体中の血管に影響します
  • 腎不全の最終段階への進行:適切な管理を行わないと腎機能が徐々に下がり、透析が必要になる危険性があります

慢性腎臓病は初めのうちはほとんど症状がないため、定期的な健康診断で早く見つけ、危険因子の管理を行うことがとても大切です。生活習慣の見直し、適切な薬による治療、定期的な腎機能の検査を通じて、腎機能の低下を防いだり遅らせたりすることができます。

慢性腎臓病と生活習慣病の深い関連性

慢性腎臓病(CKD)と生活習慣病は密接につながっており、お互いに影響し合う関係にあります。この関係を理解することは、腎臓の機能を守り健康を維持するためにとても大切です。

生活習慣病から慢性腎臓病への影響

生活習慣病は慢性腎臓病の主な原因となります。特に以下の病気が慢性腎臓病の発症や進行に大きく関わっています:

血糖値が高い病気:血糖値が高い状態が続くと、腎臓の糸球体の血管が傷つきます。血糖値が高い病気による腎臓の病気は人工透析を始める最大の原因となっており、日本の新しく透析を始める患者さんの約40%を占めています。血糖値が高い病気の患者さんは健康な人と比べて、慢性腎臓病になる危険性が約2~3倍高くなります。

血圧が高い状態長く続く高い血圧は腎臓の血管に過度の圧力をかけ、組織を傷つけます。腎機能の低下と高い血圧は悪い循環を作り、お互いを悪化させる関係にあります。高い血圧は慢性腎臓病の原因であると同時に、慢性腎臓病によってさらに悪くなります。

血液中の脂質バランスの異常:血液中の脂質バランスの乱れは腎臓の血管を傷つけ、腎機能の低下を早めます。特に悪玉コレステロールが高いと慢性腎臓病の進行の危険性を高めることが分かっています。

体重過多・お腹周りの脂肪がたまる症候群:内臓の周りに脂肪がたまると炎症を起こす物質の分泌が増え、腎臓に傷を与えます。お腹周りの脂肪がたまる症候群の要素が多いほど、慢性腎臓病の危険性は高まります。

共通する生活習慣要因

慢性腎臓病と生活習慣病の両方に影響する主な生活習慣の要因には以下があります:

  • 塩分の取りすぎ(血圧を高くし、腎臓に負担をかける)
  • たばこを吸う習慣(血管を傷つけ、腎機能の低下を速める)
  • 体を動かさない生活(代謝の機能低下を招き、太る危険性を増やす)
  • お酒の飲みすぎ(血圧を上げたり代謝に異常を引き起こしたりする)
  • 不規則な食事(栄養のバランスの乱れを招く)

生活習慣の見直しは両方の病気の予防と治療の基本となります。塩分を減らす、適度に体を動かす、たばこをやめる、適正な体重を保つなどの健康的な生活習慣を実践することで、慢性腎臓病と生活習慣病の両方の危険性を大幅に減らすことができます。

定期的な健康診断で腎臓の機能や生活習慣病に関連する検査を受けることが、早く見つけて早く治療するための鍵となります。

慢性腎臓病と認知症の関連性

慢性腎臓病(CKD)と認知症は、一見すると関係のない二つの病気のように思えますが、実はとても深いつながりがあります。この二つの病気の関係を理解することは、健康を守るうえでとても大切です。

認知症の危険性が高まる

慢性腎臓病の患者さんは、健康な人と比べて認知症になる危険性がはっきりと高いことが研究によって明らかになっています。具体的には:

  • 慢性腎臓病の患者さんは一般の人と比べて認知症になる危険性が1.7~2.6倍高くなります
  • 腎臓の機能障害が中程度ある場合、認知症の危険性が約37%増えるという報告もあります
  • 血液透析を受けている患者さんの30~60%が認知症または軽い認知障害に当てはまるとされています
  • 最近の大きな規模の研究では、認知症の原因の約10%が慢性腎臓病に関連していると報告されています

仕組み

慢性腎臓病が認知症の危険性を高める主な仕組みには次のようなものがあります:

  1. 血管に関わる要因:慢性腎臓病の患者さんでは脳の血管による認知症の頻度が特に高く、これは腎機能の低下に伴う血管の障害と関連しています
  2. 尿素窒素の影響:腎機能が低下すると血液中に増える尿素窒素が血液と脳の間の壁の機能を障害し、有害な物質の脳への侵入を促します
  3. 脳のやせが進む:慢性腎臓病の患者さんでは脳の灰色の部分のやせが進みやすく、特に物事を計画し実行する機能の低下と関連しています
  4. 代謝の異常:血が足りない状態や電解質の異常、酸化によるストレスの増加といった代謝の異常が脳の機能に悪い影響を及ぼします
  5. 共通の危険因子:血圧が高い状態、血糖値が高い病気、動脈硬化などは、慢性腎臓病と認知症の両方の発症や進行に関わる共通の危険因子です

慢性腎臓病と認知症の関連性は比較的新しい知見ですが、腎臓の機能の管理が脳の健康を保つことにも重要であることを認識し、若いうちからの適切なケアが両方の予防につながります。

慢性腎臓病の原因

慢性腎臓病(CKD)はさまざまな原因によって引き起こされる、腎臓の機能が少しずつ低下していく状態です。その主な原因は以下のとおりです。

生活習慣病関連

血糖値が高い病気による腎臓の病気: 血糖値が高い病気は現在、慢性腎臓病の最も大きな原因となっています。長い間血糖値が高い状態が続くと、腎臓の糸球体にある小さな血管が傷つき、こし分ける機能が低下します。初めのうちは微量のアルブミンというたんぱく質がおしっこに出始め、進むとはっきりとしたたんぱく尿へと変化し、最終的には腎臓の機能が著しく下がります。

腎臓が硬くなる病気(血圧が高いことによる腎臓の病気): 長年の血圧の高さやたばこを吸う習慣により体中の動脈硬化が進み、腎臓の血管が徐々に傷つくことで発症します。特に年配の方に多く、近年増える傾向にあります。血圧が高い状態は腎臓の障害の原因であると同時に、腎機能の低下によってさらに悪くなるという悪い循環を生み出します。

その他の要因

年を重ねること: 年齢とともに自然に腎機能は下がります。高齢の方が増える社会の進行に伴い、年を重ねることによる腎機能の低下が慢性腎臓病の一因となっています。

遺伝的な要素: 家族に同じ病気の人がいると慢性腎臓病の危険性が高まるケースがあります。

慢性腎臓病はいろいろな原因が複雑に絡み合って発症することが多く、適切な予防と早い段階での治療のためには原因を特定することが大切です。

慢性腎臓病の予防と改善

慢性腎臓病(CKD)は早い段階で見つけて適切な対策をとることにより、進行を遅らせたり、場合によっては状態を良くすることが可能です。以下に予防と改善のための大切なポイントをまとめます。

生活習慣の改善

食事の管理

  • 塩分を減らす:塩分の摂取量を1日6g以下に抑えることが勧められています。塩分の取りすぎは血圧を上げ、腎臓に負担をかけます。
  • たんぱく質の適正化:腎機能の低下がある場合は、腎臓の負担を減らすため、たんぱく質の摂取量を調整します。ただし、極端に制限すると筋肉が減る(サルコペニア)危険性があるため、医師の指導のもとで行うことが大切です。
  • 適切なカリウムの管理:腎機能が低下すると血液中のカリウム値が上がりやすくなるため、進行した場合はカリウムの多い食品の摂取を控えます。
  • 十分なエネルギーの摂取:栄養が足りない状態を防ぐため、適切なカロリー摂取を心がけます。

運動の取り入れ

  • 従来「安静」が勧められていましたが、最近では適度な運動が腎機能の低下を防ぎ、透析への移行を遅らせることが分かっています。
  • 歩くことなどの有酸素運動と膝の曲げ伸ばしなどの筋力トレーニングを組み合わせた「腎臓リハビリテーション」が効果的です
  • 病気の状態が安定している患者さんに勧められ、週3回、20〜30分程度の運動が基本です。

そのほかの重要な対策

  • 定期的な検診:早く見つけて早く治療することが重要です。おしっこの検査や血液の検査で腎臓の機能を定期的に調べましょう。
  • たばこをやめる:たばこを吸う習慣は腎機能が低下する危険因子であり、やめることで進行を抑えられます。
  • 十分な水分の摂取:適切な水分の摂取は腎臓の機能を保つために重要です。
  • 睡眠とストレスの管理:睡眠不足や過度のストレスは腎臓に負担をかけるため、良い睡眠の確保とストレスの管理が大切です。

慢性腎臓病の予防と改善には、これらの対策を総合的に行うことが必要です。段階や原因となる病気によって適切な対応が異なるため、医師の指導のもとで個人に合った治療計画を立てることが重要です。

慢性腎臓病予防のメリット

慢性腎臓病(CKD)の予防によって得られるメリットは非常に多くあります。日本では成人の約8人に1人、およそ1,330万人が罹患している「国民病」の状態です。予防することで透析治療が必要となる末期腎不全への進行を防ぐことができる点が最大のメリットです。腎臓の機能は一度失われるとほとんど回復しないため、予防を通じて腎機能を維持することは健康に過ごせる期間を延ばす重要な要素となります。

腎臓病の予防は心筋梗塞や脳卒中といった心臓や血管の病気の危険性を下げることにもつながります。慢性腎臓病と心血管疾患には深い関連があり、腎臓の健康を守ることは体全体の健康を守ることにも直結します。

定期的な健康診断による早い段階での発見も大きなメリットがあります。初期段階ではほとんど症状が現れない慢性腎臓病を早く見つけることで、適切な対策をとることができます。食事や運動などの生活習慣の見直しによって、腎機能が低下するスピードを遅らせることが可能になります。

最近の研究では、適切な運動が腎機能の改善や維持に効果的であることが分かってきました。「腎臓リハビリテーション」と呼ばれる歩く運動などの有酸素運動が勧められており、これにより腎機能の改善だけでなく、体全体の健康維持にも役立ちます。

予防や早い段階での対策によって、むくみや夜間のおしっこの回数増加、血が足りない状態、体のだるさなどの症状の発生を防ぐことができ、日常生活の質を保つことができる点も大切なメリットです。

まとめ

慢性腎臓病(CKD)は、腎機能が徐々に低下していく深刻な病気です。生活習慣病との強い関連があり、認知症リスクも高めます。早期発見と適切な対策が非常に重要で、食事の管理や適度な運動、禁煙などの生活習慣改善が効果的です。予防によって透析治療への移行を防ぎ、心血管疾患のリスクも低減できます。定期的な健康診断で腎機能をチェックし、早めの対策をとることで、健康寿命を延ばし生活の質を維持することができます。腎臓の健康は全身の健康につながることを忘れないようにしましょう。