今回は推定相続人を廃除する審判申し立ての方法について解説いたします。
推定相続人から相続資格を奪う方法として「推定相続人の廃除」という制度があります。この廃除をするためには,その相続人に廃除事由があることが必要となります。さらに,法律で定められた手続をとる必要もあります。
この記事の目次
推定相続人の廃除とは
子供から暴力を受けたり、侮辱されて、子供に相続財産を残したくないと思ったときは、法定相続人からその子を外すように書くことができます。
このように、法定相続人から特定の相続人を外すことを「排除」といいます。排除された相続人は遺留分もなくなります。
相続人の廃除事由
特定の相続人を法定相続人から外す場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。そのため、排除をするだけの十分な理由と証拠が必要となります。
たとえば、
・被相続人に暴力を振るった
・重大な侮辱をした
・金銭を無断で持ち出した
・多額な借金をした
などです。
廃除できる推定相続人
排除ができる相続人は遺留分のある相続人のみとなります。
兄弟姉妹には遺留分がありませんので、
兄弟姉妹を排除することができません。
兄弟姉妹に財産を遺したくない場合は、
他の相続人に財産を相続させたり、
第三者に財産を遺贈する旨を書けば大丈夫です。
推定相続人を廃除する審判申し立ての方法
この推定相続人の廃除の手続をする方法には,被相続人が生前に行う場合と,
遺言によって行う場合とがあります。
被相続人が生前に行う場合
被相続人が生前に推定相続人の廃除を行う場合の請求権者は,被相続人です。
また、廃除の相手方は推定相続人ですが,すべての推定相続人が対象となるわけではありません。
廃除ができるのは,遺留分を有する推定相続人です。そのため、遺留分を有しない推定相続人に相続財産を渡したくない場合は,
その人には相続財産を渡さない旨の遺言を作成します。
廃除請求をすべき裁判所
被相続人が生前に推定相続人の廃除を行う場合には,請求権者である被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に,廃除の請求をする必要があります。
推定相続人廃除審判の申立書を上記管轄家庭裁判所に対して提出する方法によって廃除請求を申し立てることになります。
家庭裁判所の審判
推定相続人の廃除は,遺産分割などの相続に関する事件と異なり,調停をすることのできない事件になります。
したがって,廃除請求の手続は,審判手続として行われることになります。
市区町村への届出等
推定相続人の廃除を認める審判が確定した後,市区町村にその旨を届け出る必要があります。
具体的には,被相続人の戸籍のある市区町村役場に,前記審判書を添付して,推定相続人の廃除の届出をします。
これをすると,推定相続人が廃除された旨が戸籍に記載されます。
遺言によって行う場合
推定相続人の廃除は,遺言で定めておくこともできます。
ただし,遺言によって行う場合,相続開始後に遺言に従って廃除の手続をとってもらうため,遺言執行者を選任して,遺言で遺言執行者も定めておく必要があります。
遺言廃除をした場合,相続開始後,遺言執行者が,被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に,推定相続人の廃除を請求することになります。したがって,遺言廃除の場合は,遺言執行者が請求権者となります。
その後の手続は,基本的に,上記生前に推定相続人を廃除する場合と同様です。
推定相続人を廃除する審判申し立てについての参考条文
家事事件手続法
第十一節 推定相続人の廃除に関する審判事件
(推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の取消しの審判事件)
第百八十八条 推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。ただし、これらの審判事件が被相続人の死亡後に申し立てられた場合にあっては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 第百十八条の規定は、前項に規定する審判事件における被相続人について準用する。
3 家庭裁判所は、推定相続人の廃除の審判事件においては、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き、廃除を求められた推定相続人の陳述を聴かなければならない。この場合における陳述の聴取は、審問の期日においてしなければならない。
4 推定相続人の廃除の審判事件における手続については、申立人及び廃除を求められた推定相続人を当事者とみなして、第六十七条及び第六十九条から第七十二条までの規定を準用する。
5 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一 推定相続人の廃除の審判 廃除された推定相続人
二 推定相続人の廃除又はその審判の取消しの申立てを却下する審判 申立人
(遺産の管理に関する処分の審判事件)
第百八十九条 推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件は、推定相続人の廃除の審判事件又は推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件が係属している家庭裁判所(その審判事件が係属していない場合にあっては相続が開始した地を管轄する家庭裁判所、その審判事件が抗告裁判所に係属している場合にあってはその裁判所)の管轄に属する。
2 第百二十五条第一項から第六項までの規定は、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件において選任した管理人について準用する。この場合において、同条第一項、第二項及び第四項中「家庭裁判所」とあるのは「推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分を命じた裁判所」と、同条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは「遺産」と読み替えるものとする。
3 推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分を命じた裁判所は、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判が確定したときは、廃除を求められた推定相続人、前項の管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、その処分の取消しの裁判をしなければならない。