今回は相続人全員が相続放棄すると実家はどうなるかについて解説します。民法239条第2項では、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」としています。したがって、不動産を相続する権利のある相続人(被相続人の子、親、兄弟姉妹)全員が、被相続人が実家などの不動産の相続権を放棄すると、その不動産は国のものとなります。
相続放棄をする場合
相続放棄とは、亡くなった親などが残した一切の財産を引き継がないことを言います。詳細はこちらをご参照ください
ここで、不動産を国庫に帰属させる手続きを行うためには弁護士や司法書士などの第三者を「相続財産管理人」とする申請を行い受理された後、その不動産に相続人がいないことを法律的に確定させる必要があります。
民法第940条に、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定められています。
したがって、相続放棄が成立して固定資産税の支払い義務がなくなっても、相続財産管理人が管理を始めるまでは、空き家の管理義務自体は相続放棄をされた方に残る可能性があります。そのため、空き家をめぐって周辺の住民とトラブルが生じたり、賠償を要したりする事故が起きてしまった場合は、その責任を負わなければならないことがあります。
相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が決まるまでは、空き家の管理義務が残っている場合がありますので、空き家を放置しておくわけにはいきません。もし、相続財産管理人が管理を開始するまで自身での空き家の管理が難しい場合は、専門家などにご相談されたほうがいいです。
相続財産の中に家などの不動産があるのに相続放棄をする理由
以下の場合、相続財産の中に家などの不動産があっても相続放棄をされる場合があります。
・ご実家が田舎にあるため、土地を売却できそうにない。
・建物が古くて売れそうにない。
・建物を取り壊す費用が資産価値を上回ってしまう
・多額の借金があり、家を売却してもプラスにならない
ご実家に住む人がいなくて、相続しても売却できず管理費用や固定資産税を支払う必要があり、遺産を相続してもメリットがないため相続放棄を検討される方が多いです。

しかし、「相続放棄をすればで実家とは無縁になる」というわけではありません。相続放棄したご実家は国のものになりますが、相続放棄が認められてもすぐには国のものにはなりません。
そのため、相続放棄が認められたとしても手順を踏んでご実家を手放していく必要があります。
具体的には、相続財産を管理してもらう「相続財産管理人」を選任して管理責任を引き継意でもらう必要があります。
つまり、相続放棄をしても相続財産管理人に引き継ぐまでは、相続人に財産を管理する責任が残ります。
また、相続財産管理人の選任には費用がかかります。
相続放棄の手続きが終わった後
相続人全員がそれぞれ相続放棄の手続きが終わって、受理されたあとは相続財産管理人を選任します。
選任された相続財産管理人は、最初に、相続放棄をされた不動産の売却を試みます。売却ができれば精算します。売却ができない場合には手順を通して、相続放棄をされた不動産を国の財産へと移行していきます。
相続放棄ができる期限は、亡くなられたことを知った日から3ヶ月以内です。
相続放棄をするときは、財産を選択して個別に放棄することはできません。ご実家を相続放棄する場合にはすべての財産が相続できなくなりますので気を付けてください。
全員の相続放棄が終わった後に、相続人の代表の方が家庭裁判所に「相続財産管理人の選任申立て」をします。
相続財産管理人の選任申立て
全員が相続放棄をした場合、通常「利害関係者」や「検察官」が「相続財産管理人の選任申立て」をしますが、売却できない実家があって、相続財産全体でマイナスになりそうな場合には、誰も「相続財産管理人の選任申立て」をしません。
相続人の代表者が「相続財産管理人の選任申立て」をしないといけないというような法的な義務はありませんが、相続放棄をした財産であってもその財産の管理が始まるまでは相続人に管理責任がある。という趣旨が民法に規定されています。
家の管理義務を怠ったことにより、近隣住民とトラブルになったときなどは相続放棄をされた方に管理責任がありますので、「相続財産管理人の選任申立て」の手続きを行い、相続財産管理人へ管理を引き継ぐ必要があります。
基本的に、弁護士や司法書士が相続財産管理人に選任されます。選任されると、不動産の売却など、いろいろな対応をしてくれます。
相続財産管理人は家庭裁判所の許可をもらって、管理対象の不動産を売却します。しかし、家庭裁判所の許可がおりなかったり、買い手が見つからない場合は、不動産のまま最終的に国が受け入れることになります。
相続財産をすべて国庫に引き継いだときに、相続財産管理人の任務は終了となります。
家の管理責任
相続放棄しても相続財産管理人が選任されるまでは、相続人に家の管理責任があります。この期間のご実家の維持管理に必要な費用は、相続人が負担する必要があります。
また、ご実家に倒壊などのリスクが発生し、行政の判断で家の取り壊しがおこなわれる場合には、その際の取り壊し費用は相続人が負担する場合があります。
相続人ご自身で実家の管理が難しい場合は専門業者にご相談ください。
相続財産管理人を選任をする場合
相続財産管理人を選任をする場合は費用が発生します。
相続財産管理人へ支払う報酬のことを予納金といい、
家庭裁判所に納めて、相続財産管理人の任務が終わった後に、
家庭裁判所から相続財産管理人へ支払われます。
相続財産管理人を選任してもらうためには申立てをした後に、予納金を納める必要があります。
その予納金の金額は家庭裁判所が決定します。通常、数十万円以上かかります。
相続財産管理人が相続放棄した家を売却するまで、もしくは国に引き継がれるまでに、
相続放棄をしてからおおよそ半年~1年くらいとなります。
相続人全員が相続放棄した場合のまとめ
相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産管理人を選任し、相続財産管理人が売却するか国庫に引き継ぎます。
相続放棄をしても、相続財産管理人が選任されるまでは家の管理責任は残ります。さらに、相続財産管理人の報酬としての予納金を支払う必要がありますので気を付けてください。
相続放棄をする場合は、手続きが複雑ですので、相続の業務を行っている行政書士などの専門家にご相談ください。
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