親が認知症になると家を売ることが出来なくなる可能性が高くなります。

その理由は以下の3つです。

1.認知症になると判断能力がなくなってしまうため、契約などの法律行為が無効となります。

2.認知症の方の子供でも、認知症の方の代筆をすることが出来ません。

3.成年後見人でも、合理的な理由がなければ、自宅の売却をすることが出来ません。

1.認知症になると判断能力がなくなってしまうため、契約などの法律行為が無効となります。

判断能力がなくなっても、大人だから認知症になっても法律行為が出来ると想っている方がいらっしゃると思います。しかし、外見上大人でも、判断能力がないため、無効になる人がいます。それは、未成年です。最近の子供は、身長が高い人が多く、見た目では大人に見えますが、まだ未成年の方は結構たくさんいます。もし、中学生がパソコンを購入したいと思っていて、お店の方と売買契約をしようとしたとき、中学生一人では売買契約をすることが出来ません。保護者の同意や署名捺印などが必要となってきます。もし、中学生が保護者の同意を得ずにパソコンを購入した場合は、無効になるか、その売買契約は取り消すことが出来ます。

 認知症になった方は未成年の方と同じように、法律行為をする場合は、保護者の同意が必要となります。保護者の同意がない法律行為は無効になるか、取り消すことが出来ます。そのため、認知症になって、判断能力がなくなると家を売ることが出来なくなります。

2.認知症の方の子供でも、認知症の方の代筆をすることが出来ません。

中学生などの未成年の子の代わりに親が署名することは法律で認められていますのですることが出来ますが、親が認知症になったときに、子供が代わりに署名できるという法律はありませんので、することが出来ません。法律上、規定されていませんので、認知症の親の変わりに、子が代わりに署名できると思っている方が多いそうです。法律行為の一部は、子が代わりに署名捺印しても出来てしまうものがありますが、建物や土地の売買などの場合は、司法書士の方が、建物や土地の登記の名義変更をします。そのときに、不動産の名義人になっている方の意思表示の確認をします。司法書士が、不動産の名義人の方が認知症になっていて、判断能力がないと判断した場合、不動産の名義の方の意思の確認が出来ないため、不動産の登記の名義変更をする手続きを進めることが出来なくなります。

3.成年後見人でも、合理的な理由がなければ、自宅の売却をすることが出来ません。

成年後見は認知症の代わりに法律行為が出来ますので、不動産を売却することが出来ますが、親の自宅を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。家庭裁判所の許可を得るためには、自宅を売却するための合理的な理由がなければ、自宅を売却することが出来ません。

 合理的な理由とは

  ・老人ホームに入居したり、病院に入院するための費用を捻出するため

  ・自宅の老朽化がひどく、台風などで屋根や壁が崩れて、近隣の方に迷惑がかかる

などとなります。

 一方認められない例とは

  ・家を売却して建て替えたい

  ・もう住まないから

  ・不動産を売却して、運用資金に回したい。

などとなります。

 認められない理由は、不動産の名義人の方にとって利益が少ないから、または、認知症などから回復したときに戻る場所がなくなるため、家庭裁判所はほとんどの場合許可を出してくれません。

また、成年後見人には多くの場合、行政書士、司法書士、弁護士などの専門家がなります。専門家は、どういう場合に不動産の売却に合理的な理由があると判断され、家庭裁判所から許可が出るかを知っています。そのため、家庭裁判所に不動産売却の許可申請を出してくれない可能性が高いです。

親(不動産の名義人)が認知症になる前に、子と任意後見の契約を結んでいた場合、子は任意後見煮になりますので、不動産の売却をするための権限がありますが、任意後見の場合、専門家が任意後見監督人としてつきますので、不動産の売却は難しくなると思われます。

自分が元気なときは自分で不動産を管理・処分をすることが出来ます。

また、自分が亡くなった後は遺言書で不動産を管理・処分してくれる人を指定することが出来ます。

しかし、自分が認知症になったときに不動産を管理・処分してくれる人は成年後見人になりますが、制限がかかったり、費用がかかったりと、自分の意思で不動産を管理・処分をすることが難しくなります。

 この問題を解決できる制度家族信託です。

家族信託とは

自分の財産を家族の人などに託して、財産の管理・処分をしてもらう制度です。家族信託をする場合は、成年後見や任意後見のように家庭裁判所に申請する必要はありません。また、信託銀行や信託会社を通す必要もありません。

たとえば、父親はすでに亡くなり、母親と息子がいたとします。

認知症と家族信託

母親が認知症になり、老人ホームに入居しました。このとき、長男は県外に家を建てて、配偶者と一緒に住んでいました。そのため、母親の自宅は誰も住んでいません。

母親は認知症になっているので、法律行為をすることが出来ず、自宅を売却することが出来ません。また、成年後見人制度を利用したとしても、制限がかかり自宅の売却することが出来ません。

さらに、長男にも母親の自宅を売却する権利がありませんので、売却することが出来ません。その結果、母親の自宅は空き家になってしまい、母親が認知症から回復するか、亡くなるまで、母親の自宅を売却することが出来ません。

 しかし、母親が認知症になるまでに長男と家族信託契約を結んでいた場合、この問題を解決することが出来ます。家族信託契約を結ぶと、母親は長男に不動産の管理を任せます。

このとき、不動産の登記は母親から長男に代わりますが、これは形式的なものであり、実際の所有権者は母親のままです。母親が認知症になって、老人ホームに入所して、母親の自宅が空き家になった場合、長男は家族信託契約で、母親の自宅の管理を任されていますので、母親の自宅を売却することが出来ます。

母親の自宅の所有権は母親のままですので、この売却したお金は長男のところに入ってきますが、母親の利益となりますので、長男が管理して、老人ホームの費用や病院の入院費用に使うことが出来ます。

母親は認知症になっていますが、成年後見制度のように家庭裁判所の許可を得る必要がなく、長男一人で行うことが出来ます。

成年後見制度の場合は、法律に基づいたことしか出来ません。認知症になった方の財産は認知症の方のためにしか使えません。そのときは、家庭裁判所の許可が必要です。また、成年後見人に毎月報酬を支払わなければいけません。

財産は、その持ち主やご家族の事情によって財産の管理・処分方法が変わってきますが、成年後見制度では法律で決められた内容でしか管理・処分することが出来ません。

家族信託を使っていただければ、財産の持ち主やご家族の事情にあわせて自由に設計し、想い通りに財産を管理・処分することが出来ます。

 高齢者のすべての方が認知症になるわけではありません。しかし、認知症になる方がだんだん増えてきます。家族信託は認知症になったときの保険になると私は思っています。

あらかじめ認知症対策として家族信託契約を結んでいない場合、成年後見制度を利用しないと預金口座からお金を引き出せなくなったり、不動産の売却が出来なくなります。また、家庭裁判所の許可を得ないといけなかったり、行政書士や弁護士などの専門家に財産を管理してもらったり、毎月専門家に報酬を支払う必要があります。

任意後見の契約をしていたとしても、前述のとおり、後見人には任意後見監督人がつきますので、財産の管理が不自由になります。

元気なうちから、近い将来の自分や家族のために認知症対策として信頼できる人とあらかじめ家族信託契約を結んだほうがいいと思われます。

家族信託についてはこちらをご参照ください。

家族信託の小冊子を作成しました。

認知症と家族信託

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