遺産分割協議をしないと、数々の問題を引き起こす可能性があります。相続人の権利が曖昧なままであれば、資産の有効活用や相続税処理が難しくなります。また、家族関係が悪化し、法的なトラブルが発生するリスクも高まります。この記事では、なぜ早期の遺産分割協議が必要なのか、そのメリットとデメリットに焦点を当て、適切なアクションを起こす重要性を探ります。

遺産分割行儀をしない

遺産分割に法定された期限は存在しない

遺産分割協議には法的な期限が設定されておらず、原則としていつでも行うことができます。日本の民法第907条によれば、共同相続人は、被相続人が遺言で禁じていない限り、「いつでも」遺産の分割協議を行うことができます。

具体的には、被相続人が亡くなった後、相続人たちは自身の都合や状況に応じて、合意形成のための協議を行うことができます。この期限が法的に設定されていないため、相続人たちは数年後や数十年後になっても遺産分割協議を進めることができます。

遺産分割に期限設定を設ける法改正は実現しなかった

2018年9月19日の日本経済新聞において、「法務省は遺産分割を話し合いで決める期間を相続開始から10年に限ることを検討する。これまでは相続人が協議しないまま権利関係が確定せず、土地などの利用を希望する人の妨げになっていた。相続を円滑にして所有者不明の土地を減らし、活用を促す。2020年の民法改正をめざす。」という報道がありました。

この報道によれば、法務省は遺産分割において話し合いで合意が得られない場合の期間を相続開始から10年に制限する検討を行っていたとされました。目的は、相続人が協議しないままで権利関係が確定せずに残る状況を改善し、土地の利用を希望する人に対する妨げを減らすことで、相続手続きを円滑に進め、所有者不明の土地の減少を促進することでした。これは、2020年の民法改正を目指す方針でした。

しかし、報道から現在までの期間において、この法改正は実現していないようです。直近の法改正情報を確認したところ、遺産分割に期限が設定されるような法改正要綱は見当たりません。そのため、遺産分割に期限が設定されることは当面ないと考えられます。現在も相続人は法的な制約なく、遺産分割協議を進めることができる状況が続いています。

遺産分割を放置する理由

誰も遺産分割の話を切り出さない: 遺産分割に関する話題は感情的で難しいものであり、相続人たちが最初に切り出すことが躊躇されることがあります。これにより、協議が始まらずに放置されることがあります。

相続人同士の仲が悪い:

相続人間の不和や対立がある場合、遺産分割の話し合いが難しくなります。仲が悪いままだと、協議を避ける傾向があります。

遺産分割の話し合いがまとまらない:

相続人たちの意見や要望が一致せず、話し合いがまとまらない場合、進展がなくなり放置されることがあります。

認知症の相続人がいて遺産分割できない:

相続人の中に認知症の状態にある人がいる場合、その人の法的な能力が制限されるため、遺産分割が難しくなります。

相続人が行方不明になっている:

相続人が行方不明になり、その存在や意向が確認できない場合、遺産分割が進まないことがあります。

未成年者の相続人が成人になるのを待っている: 未成年者が相続人としている場合、成人するまで遺産分割を待つことがあります。

遺産の存在を知らない:

相続人たちが遺産の存在を知らない場合、適切な手続きを取ることが難しくなり、話し合いが始まらないことがあります。

仕事や家事が忙しくて話し合いの時間がない: 相続人たちが忙しくて遺産分割の話し合いに十分な時間を割けない場合、協議が進まずに放置されることがあります。

なお、「四十九日が経過した頃に遺産分割の話題が出ることが一般的」とされているのは、この期間が喪家が喪に服す期間であり、喪中の家族が日常生活に戻りやすいため、その後に遺産分割の話し合いが持ち上がることが多いからです。

遺産分割を放置するデメリット


遺産分割を放置することには様々なデメリットが存在します。以下に、その主なデメリットを詳しく説明します。

遺産の相続ができない:

遺産分割をせずに相続人全員の合意が得られないまま放置すると、誰がどの財産を相続するかが確定せず、相続手続きが進まないため、遺産の相続ができません。相続人は被相続人の財産に手を付けることができません。

相続による手続きの申告には期限がある:

相続が開始されると、相続に関連する手続きや申告が必要です。相続税の申告期限やその他の手続きには期限があるため、遺産分割が放置されると期限を過ぎてしまい、ペナルティや追徴課税の可能性が生じます。

費用がかかる:

遺産分割を放置することで不動産が相続人全体の共有財産となり、管理費用や税金が発生します。また、不動産を売却する意思がある場合、そのプロセスも進まないままとなり、管理費用やその他の経費がかさんでしまいます。

相続財産が無くなる恐れ:

遺産分割を放置すると、大事な財産や形見などが失われるリスクがあります。物の行方が分からなくなり、管理が難しくなるため、貴重な遺産が失われる可能性があります。

次の相続が始まる可能性:

遺産分割が確定する前に相続人が亡くなると、新たな相続が始まります。これにより、相続関係が複雑化し、後続の手続きが難しくなります。

勝手に相続登記がされる可能性:

遺産分割を放置すると、相続人全体の共有名義で不動産が登記され、他の相続人が勝手に共有登記を行い、その持分を第三者に売却される可能性があります。これにより本来の相続人が損失を被る可能性があります。

これらのデメリットからも分かる通り、遺産分割を早急に進めることは重要であり、放置することは相続人全体にとって損失や法的な問題を引き起こす可能性が高まります。

相続税の期限を目標に遺産分割を

相続税の申告期限は通常、「相続開始から10ヶ月以内」であると定められています。この期限は、相続が発生したことを速やかに税務当局に報告し、相続税の評価や納税手続きを円滑に進めるために設けられています。

しかし、疎遠な関係や亡くなったことを知るまでに時間がかかるケースなど、特殊な状況下では相続税の申告期限の延長が認められることがあります。この場合、税務署への事前の届け出や申請が必要となります。主な理由としては以下が挙げられます。

被相続人や相続人の所在が不明である場合:

相続人が被相続人や相続財産の存在を知るまでに時間がかかる場合、相続税の申告期限を延長することが認められることがあります。

相続人間の協議が難航している場合:

遺産分割の協議が難航している場合、相続税の申告に必要な情報が揃わず、期限内に申告が難しい場合にも、延長の対象となることがあります。

ただし、遺産分割協議が完了していないだけでは相続税の申告期限を延長することは難しい傾向があります。税務当局は相続税の手続きには一定のスケジュールがあるため、協議の進捗状況によっては期限内に申告できるよう、相続人は早めに遺産分割協議を進めることが重要です。

相続税の申告期限に関しては特殊なケースにおいて延長が認められることもありますが、できるだけ早い段階で税務当局に相談し、適切な手続きを進めることが望ましいです

期限を設けることで進捗を促進:

目標となる期限を設けることで、相続人たちは遺産分割に取り組む期間が限定されるため、進捗を促進する効果が期待できます。

相続税の申告がスムーズに進む:

遺産分割を早期に進め、相続税の申告が期限内に完了すれば、ペナルティの回避やスムーズな手続きが可能です。

法的問題を予防:

期限を意識することで、法的な問題や不透明な状況が続かないようにし、相続人たちの納得のいく形で遺産分割を進めることができます。

注意点:

期限に余裕をもたせる:

相続税の申告期限が近づく前に遺産分割を完了することが望ましいですが、万が一のトラブルや争いが発生する可能性も考慮して、期限に余裕をもたせることが重要です。

相続人の合意が必要:

遺産分割は相続人全員の合意が必要です。期限を強制的に設定する場合でも、全員が合意するまで進めることが難しい場合があります。合意形成に時間をかけることも考慮する必要があります。

法的アドバイスを得る:

期限を設定する場合でも、法的な専門家のアドバイスを得ることが重要です。特に相続税などの税務に関する専門家の意見を仰ぎ、正確かつスムーズな手続きを進めることが求められます。

相続人の状況を考慮:

相続人たちの状況やスケジュールを考慮し、無理な期限を設定せず、現実的な目標を立てることが重要です。期限が厳しすぎると、逆にストレスを生む可能性があります。

相続税の申告期限を目標に遺産分割を進めることは、整理された手続きと円滑な進捗を促進するうえで有益ですが、柔軟性を持ちつつ進めることも重要です。

なるべく早く遺産分割をして権利確定をしましょう

権利の早期確定:

早期の遺産分割により、相続人たちの権利が早く確定します。これにより、財産の管理や取引、相続税の申告など、さまざまな手続きがスムーズに進められます。

財産の有効活用:

早期の遺産分割を行うことで、相続財産の有効な活用が可能となります。不動産や金融資産など、相続財産を有効に活用することで経済的なメリットを享受できます。

相続税のスムーズな処理:

早期の遺産分割により、相続税の申告や処理がスムーズに行えます。相続税の申告期限を守り、ペナルティを回避することができます。


家族関係の円滑化:

遺産分割が早く確定すれば、家族関係の緊張を緩和し、円滑なコミュニケーションが可能となります。相続に関する不透明さが解消され、将来の問題を予防できます。

資産の保全:

早期の遺産分割は、資産の保全にも寄与します。例えば、不動産の維持管理や税金の支払いなどが滞ることなく行われ、資産の価値を維持できます。

法的なトラブルの回避:

早期の遺産分割により、法的なトラブルや紛争を未然に回避することができます。遺産分割が明確であれば、将来の訴訟リスクを低減できます。

早期の遺産分割は相続手続き全体をスムーズかつ円滑に進め、家族や相続人たちのストレスを軽減し、将来の問題を予防する効果があります。専門家のアドバイスを受けながら、合意形成が進むように努めましょう。

遺産分割協議をしないのまとめ

遺産分割協議をしないと深刻な問題が伴います。権利の不確定性は資産の活用を阻害し、相続税の未処理は追加の税金を引き起こす可能性があります。また、相続人間の対立や不満により家族関係が悪化し、法的問題が発生するリスクも高まります。遺産分割が進まないままでは資産の価値が低下する可能性もあり、不動産やその他の財産の無駄な支出が発生します。将来の不透明性や将来の相続人への不利益も考慮すべきです。総じて、遺産分割協議の早期実施は円滑な相続手続きと家族関係の維持に不可欠であり、専門家のアドバイスを得ながら迅速に進めることが重要です。

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