今回は遺言執行者相続人全員の代理人について解説いたします。
遺言執行者は相続人全員の代理人として、遺言に書かれている内容を実現させるために不動産の名義を変更したり、預金口座を解約して相続人それぞれに分配したりします。
相続人のうちの1人が遺言執行者となることが多いですが、相続争いを心配されたり、遺産金額が高額な場合は弁護士や行政書士など第三者の専門家が指定されている場合も多いです。
この記事の目次
遺言執行者とは
遺言執行者とは相続人全員の代理人として、遺言内容を実現させるために不動産の名義を変更したり、預金口座を解約して相続人それぞれに分配したり、遺言内容を実現するための必要な手続きを行う人のことを言います。
遺言書がない場合や、遺言書に遺言執行者が指定されていない場合は、相続人の誰かが金融機関の名義変更などの手続きを行ったり、相続人数名で分担したりします。
しかし、相続人の誰かが財産の配分に納得していない場合は、感情的にも手続き的にも遺言執行者を指定しておいたほうがスムーズに相続手続きを終わらすことができます。
遺言書を残すのであれば、この遺言執行者を指定したほうが良いです。
遺言執行者になれる人とその役割
次に当てはまる人は遺言執行者になることはできませんが、それ以外の方は遺言執行者になることができます。
(民法第1009条)
•未成年者
•破産者
上記に該当するかどうかの判定は遺言書作成時ではなく、遺言者の死亡時点で行いますので、孫が遺言書を作成しているときはまだ未成年でも、遺言者が死亡したときは成年に達していた場合は、孫も遺言執行者になることができます。
一般的には相続人か、遺言作成を手伝った行政書士などの第三者の専門家が遺言執行者となることが多いです。
遺言執行者は、相続人全員の代理人として遺言に書かれている通りに不動産の名義を変更したり、預金口座を解約して相続人それぞれに分配したり、遺言内容を実現するための必要な手続きをします。
遺言執行者に関する2019年民法改正
改正前の民法では
2019年改正前の民法1013条
「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」
と定められていました。
そして、裁判所は昭和5年の判例で「遺言の執行者がいる場合において、遺言の内容と異なる財産の処分については絶対的に無効である」
と判断していたので、執行者の定めのある遺言があれば、その内容が守られてきました。
しかし、改正民法で、
1013条第2項
「前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない」
という内容が付け加えられました。
1013条第2項によって、遺言に反する遺産分割協議が「必ず無効になる」わけではなくなりました。
1013条第2項の具体例
遺言執行者をさしおいて、遺言に反する財産の分配を相続にが勝手に行ったという場合です。
「相続人ではないAさんに不動産を遺贈する」という内容の遺言がある場合に、相続人全員が遺言を無視して遺産分割協議を行い、相続人Bさんが不動産を取得した場合
【法改正前の場合】
遺言執行者を無視した財産の処分はいかなる場合も無効であり、遺言の内容は必ず保護されます。
つまり、最終的に不動産はAさんのものとなります。
【法改正後の場合】
相続人Bさんの名義が登記されているだけなら、改正前と同じく無効です。
しかし、もしこの事実を知らない第三者のCさんにその不動産をすでに売却していた場合、その売却は有効となり、Aさんはもはやこの不動産を取り戻すことができなくなりました。
遺言執行者の権限について
旧民法1015条
「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」
という規定がありましたが、
【改正民法1015条】
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
と今回の改正でこのような内容に改められました。
文言としてはかなり変更がされているような印象を受けますが、実質的には変わっていません。旧民法では「遺言執行者であることを示す」ことが書かれていませんが、改正法ではこれが要件となっています。
そのため、たとえば遺言執行者が金融機関に対して相続手続き等を行うにあたっては、遺言執行者であることを示す必要があります。さらに次の規定も少し変更が加えられました。
【改正民法1012条1項】
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
遺言執行者は、法律的な位置付けは「相続人の代理人」ですが、遺言の内容の中には、逆に相続人にとって不利益となる内容も含まれることもあります。
たとえば、遺言書に「遺産を相続人以外の愛人へ遺贈する」と書いてあれば、
その内容は相続人にとっては不利益でしかなく、そのような不利益行為の代理を遺言執行者ができるのか、というケースで問題になりました。
改正法では、すでに説明した旧民法1015条から「代理人とみなす」という文言を削除されました。さらに、「遺言の内容を実現するため」という言葉を本条文中に補うことによって、遺言執行者は相続人の利益や不利益に関係なく遺言の内容を実現するために行う、ということを明確化しました。
さらに次の規定は新設規定です。
【改正民法1012条2項】
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
遺言執行者は必ず選ばなければならないわけではありません。
もし遺言執行者がいなければ、相続人の誰かがが遺贈の履行をします。
反対に遺言執行者がいれば、遺贈の履行は遺言執行者だけが行うことができますから、相続人には遺贈の執行の権限がなくなります。
遺言執行者がいるかいないかで相続人に対して大きな影響を及びますので、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者はその旨を相続人へ通知する義務があります(改正民法1007条2項)。
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