今回は、配偶者居住権と配偶者短期居住権との違いについて解説いたします。
配偶者居住権と配偶者短期居住権は配偶者に所有権がなくても今まで住んでいた自宅に住み続けることを法律で保護されることですが、違いが2つあります。
1つ目の違いは適用要件です。配偶者短期居住権は、配偶者の方が相続開始時、被相続人が所有する建物に無償で居住していれば認められますが配偶者居住権は遺産分割や遺贈、家庭裁判所の審判がなければ認められません。
2つ目の違いは存続期間です。配偶者短期居住権の存続期間は最低6カ月間ですが、配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間または遺産分割や遺言で認められた間認められます。
配偶者居住権についてはこちらをご参照ください
この記事の目次
配偶者短期居住権とは
亡くなられた方の財産の中に不動産があり、自宅の名義が亡くなられた方の単独名義となっていることがあります。夫が死亡し、自宅を第三者が取得した場合、同居していた妻は自宅を明け渡さなければなりません。しかし、直ちに明け渡さなければならないことになると、妻は大変です。
そこで、遺産分割が成立するまでなどの間における、妻の短期的な居住権を保護するために創設されたのが配偶者短期居住権です。
これまでの判例は、夫と同居していた妻にも、特段の事情がない限り、夫が亡くなっても、遺産分割が終了するまでの間は、使用貸借を根拠に居住権を認めてきました。(最判平成8年12月26日参照)
しかし、この判例は配偶者である妻の保護のためではなく、被相続人の意思を合理的に反映させた結果として判断しています。
例えば、被相続人が「私が死んだら妻は自宅からすぐに出ていくように」との意思を生前に表示していた場合や、遺言で居住建物を第三者に遺贈してしまった場合など、明らかに配偶者である妻に自宅を相続させる意思がない場合は、判例が留保した「特段の事情」にあたり、相続開始後の使用貸借契約の成立が推認されず、やはり妻の居住権は法的に保護されませんでした。
そこで、配偶者短期居住権を創設して、上記判例の「特段の事情」がある場合も含めて、被相続人の意思にかかわらず、相続発生後の一定期間は、配偶者の居住権が法的に保護されることになりました。
配偶者短期居住権の適用要件
配偶者短期居住権の適用されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
①被相続人の配偶者であること
※「配偶者」には内縁の配偶者は含まれません。また、相続欠格事由が存在する場合や廃除された配偶者は含まれませんが、
相続放棄した配偶者は含まれます。そのため、相続放棄をした配偶者も、配偶者短期居住権を主張することができます。
②相続開始時、被相続人が所有する建物に無償で居住していたこと
配偶者短期居住権の効果及び存続期間
相続開始から以下の各期間まで、居住建物を無償で使用する権利を取得します。
また、存続期間は短期間に限定されるのが通常であるため、登記などの対抗要件制度は設けられていません。
遺産分割の対象となる場合の期間
①遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、
または
②相続開始の時から6カ月を経過する日
のいずれか遅い日。
となっていますので、配偶者の方は最低でも6か月間は居住権が認められます。
その後、遺産分割協議が終わって、遺産分割により自宅を取得する人が決まった日まで居住権が認められます。
遺産分割の対象とならない場合の期間
例えば、配偶者以外の者に遺贈された場合や「相続させる」旨の遺言がされた場合、配偶者が相続放棄をした場合など居住建物の取得者が、配偶者短期居住権の消滅申入れの日から6ヶ月経過する日
期限前でも権利が消滅する事由
・配偶者の死亡
・居住建物取得者から当該配偶者への消滅の意思表示
・配偶者居住権(長期居住権)の取得
※配偶者が、居住以外の用途に自宅を使用していたり、善良な管理者の注意義務に違反したような場合、居住建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の意思を表示することができます。
※配偶者居住権を取得した場合は、短期居住権は必要ありませんので消滅します。