大切な家族が亡くなったとき、残された家族にはさまざまな手続きや決めなければならないことが待っています。その中でも特に重要で、時としてトラブルの原因となりやすいのが「遺産の分け方」です。

「法定相続分」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、実際にはどのようなものなのでしょうか。この記事では、法定相続分について、できるだけ親しみやすく、わかりやすく解説していきます。

法定相続分とは?基本的な考え方

そもそも法定相続分って何?

法定相続分とは、簡単に言うと「法律で決められた遺産の分け方の目安」のことです。民法第900条で定められており、家族が亡くなったとき、誰がどのくらいの割合で遺産を受け取るかの基準を示しています。

ただし、ここで大切なのは「目安」だということです。必ずこの通りに分けなければならないという強制的なルールではありません。相続人全員が話し合って合意すれば、法定相続分とは異なる分け方をすることも可能です。

なぜ法定相続分があるの?

法定相続分が存在する理由は、主に以下の点にあります:

  1. トラブル防止:遺産の分け方で家族がもめることを防ぐため
  2. 公平性の確保:社会通念上、公平と考えられる分配方法を示すため
  3. 手続きの簡素化:遺言書がない場合の基準を明確にするため
  4. 弱い立場の保護:配偶者や子供など、保護すべき立場の人を守るため

相続人になるのは誰?相続の順位を理解しよう

法定相続分を理解するには、まず「誰が相続人になるのか」を知る必要があります。

配偶者は常に相続人

亡くなった方(被相続人といいます)の配偶者は、常に相続人となります。これは法律で決められている絶対的なルールです。ただし、ここでいう「配偶者」は、亡くなった時点で正式に婚姻関係にあった人のみです。

  • 対象となる人:法律上の夫または妻
  • 対象とならない人:離婚した元配偶者、内縁の配偶者

血族相続人には順位がある

配偶者以外の相続人(血族相続人)には、優先順位があります。上位の順位の人がいる場合、下位の順位の人は相続人になりません。

第1順位:子供たち

  • 対象者:亡くなった方の子供
  • 特徴:実子、養子、認知した子供すべてが対象
  • 代襲相続:子供が先に亡くなっている場合は、その子供(孫)が相続人になる

例えば、太郎さんが亡くなり、妻の花子さんと子供の一郎さん、二郎さんがいる場合、花子さん、一郎さん、二郎さんが相続人となります。

第2順位:父母(直系尊属)

  • 対象者:亡くなった方の父母
  • 条件:第1順位の子供がいない場合のみ
  • 代襲相続:父母が亡くなっている場合は祖父母が対象

第3順位:兄弟姉妹

  • 対象者:亡くなった方の兄弟姉妹
  • 条件:第1順位、第2順位がいない場合のみ
  • 代襲相続:兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子供(甥・姪)まで

具体的な法定相続分を見てみよう

それでは、実際の法定相続分を具体的に見ていきましょう。

パターン1:配偶者と子供が相続人の場合

これは最も一般的なケースです。

相続分の割合

  • 配偶者:2分の1(50%)
  • 子供全体:2分の1(50%)

子供が複数いる場合は、子供全体の取り分を人数で均等に分けます。

具体例 田中さんが亡くなり、妻と子供2人が残された場合:

  • 妻:遺産の2分の1
  • 長男:遺産の4分の1(子供全体の2分の1を2人で分ける)
  • 長女:遺産の4分の1

遺産が3000万円だった場合:

  • 妻:1500万円
  • 長男:750万円
  • 長女:750万円

パターン2:配偶者と父母が相続人の場合

子供がいない場合に適用されます。

相続分の割合

  • 配偶者:3分の2(約66.7%)
  • 父母全体:3分の1(約33.3%)

具体例 佐藤さんが子供のないまま亡くなり、妻と両親が残された場合:

  • 妻:遺産の3分の2
  • 父:遺産の6分の1(父母全体の3分の1を2人で分ける)
  • 母:遺産の6分の1

遺産が3000万円だった場合:

  • 妻:2000万円
  • 父:500万円
  • 母:500万円

パターン3:配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合

子供も父母もいない場合に適用されます。

相続分の割合

  • 配偶者:4分の3(75%)
  • 兄弟姉妹全体:4分の1(25%)

具体例 山田さんが亡くなり、妻と兄、妹が残された場合:

  • 妻:遺産の4分の3
  • 兄:遺産の8分の1(兄弟姉妹全体の4分の1を2人で分ける)
  • 妹:遺産の8分の1

遺産が3000万円だった場合:

  • 妻:2250万円
  • 兄:375万円
  • 妹:375万円

パターン4:配偶者のみの場合

他に相続人がいない場合、配偶者がすべての遺産を相続します。

パターン5:配偶者がいない場合

各順位の血族相続人が遺産をすべて相続し、複数人いる場合は均等に分けます。

特別なケースも知っておこう

代襲相続とは?

代襲相続とは、本来相続人となるべき人が亡くなっている場合に、その子供や孫が代わりに相続人となる制度です。

具体例 おじいちゃんが亡くなったとき、本来なら息子が相続人になるはずでしたが、その息子は既に亡くなっていました。この場合、息子の子供(おじいちゃんの孫)が代襲相続人となります。

半血兄弟姉妹の相続分

父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(異母兄弟、異父兄弟)の相続分は、父母の両方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。

具体例 亡くなった方に、同じ父母の兄と、父は同じだが母が違う弟がいる場合:

  • 兄の相続分:通常の割合
  • 弟の相続分:兄の相続分の2分の1

法定相続分と遺留分の違い

よく混同されるのが「法定相続分」と「遺留分」です。この2つは全く異なる概念です。

法定相続分

  • 性質:遺産の分け方の目安
  • 強制力:なし(相続人全員の合意があれば異なる分け方も可能)
  • 適用場面:主に遺言書がない場合

遺留分

  • 性質:法律で保障された最低限の取り分
  • 強制力:あり(請求することで確保できる)
  • 適用場面:不公平な遺言書がある場合など

遺留分の割合

  • 配偶者、子供、父母:法定相続分の2分の1
  • 兄弟姉妹:遺留分なし

実際の相続手続きはどう進むの?

遺言書がある場合

遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容に従って相続を行います。ただし、遺留分を侵害するような内容の場合は、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行うことができます。

遺言書がない場合

  1. 遺産分割協議 相続人全員で話し合い、遺産の分け方を決めます。全員の合意があれば、法定相続分と異なる分け方も可能です。
  2. 調停・審判 協議がまとまらない場合は、家庭裁判所での調停や審判に移行します。この場合、多くは法定相続分に基づいた分割となります。

法定相続分が重要な理由

相続税の計算

相続税の計算では、法定相続分に基づいて税額を算出します。実際の遺産分割の割合に関係なく、法定相続分で分けたものと仮定して計算を行います。

遺産分割の基準

遺産分割協議で話し合う際の出発点として、法定相続分が重要な役割を果たします。

不動産登記等の手続き

法定相続分に基づいて、不動産の相続登記などの手続きを行うことも可能です。

よくある質問と回答

Q1. 法定相続分通りに分けなければならないの?

A1. いいえ、必ずしもその必要はありません。相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる分け方も可能です。法定相続分はあくまで「目安」です。

Q2. 遺言書があると法定相続分は関係ないの?

A2. 基本的には遺言書が優先されますが、法定相続分は相続税の計算や遺留分の算定などで重要な役割を果たします。

Q3. 相続放棄をした人がいる場合はどうなるの?

A3. 相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったものとして扱われます。そのため、残りの相続人で法定相続分を計算し直します。

Q4. 養子の相続分は実子と同じなの?

A4. はい、法律上の養子縁組が成立していれば、実子と全く同じ相続分を持ちます。

相続でトラブルを避けるために

早めの準備が大切

相続は誰にでも起こりうることです。元気なうちに家族で話し合い、遺言書の作成を検討することが大切です。

専門家への相談

相続の手続きは複雑で、思わぬ落とし穴もあります。不安な点があれば、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

感情的にならない

遺産分割では、法律的な観点だけでなく、家族の感情も大きく関わってきます。お互いの立場を理解し、冷静に話し合うことが重要です。

まとめ

法定相続分は、家族が亡くなったときの遺産の分け方を示す重要な基準です。ただし、それは「目安」であり、実際の相続では相続人全員の話し合いによって決めることができます。

大切なのは、法定相続分を理解した上で、家族の状況や希望を考慮しながら、全員が納得できる相続を実現することです。そのためには、日頃からの家族間のコミュニケーションと、必要に応じた専門家への相談が欠かせません。

相続は人生の大きな出来事の一つです。この記事が、皆さまの相続に対する理解を深め、円満な相続の実現に役立てれば幸いです。


参考文献

  1. 国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
  2. レガシィ「法定相続分とは? 相続順位別の相続割合や計算方法をわかりやすく解説!」
    https://legacy.ne.jp/knowledge/now/souzoku/118-houteisouzokubun-souzokujyunibetsu-wariai/
  3. 朝日新聞「法定相続分と遺留分の違いは? それぞれの割合・範囲を図表で解説」
    https://souzoku.asahi.com/article/14407065
  4. チェスター税理士法人「法定相続分とは何か?計算方法や遺留分との違いを解説!」
    https://chester-tax.com/pol.html
  5. 三井住友信託銀行「相続の優先順位と相続の割合は?相続できる範囲を含め解説」
    https://www.smtb.jp/personal/entrustment/entrustment-column/column-12