家庭裁判所へ申し立てたが相続放棄ができない場合とは
相続放棄をする場合は家庭裁判所へ申し立てます。
相続の放棄は、遺産分割における「相続分の放棄」とはことなります。
「相続放棄手続き」は家庭裁判所へ書類等揃えて申し立てて、受理されることで最初から相続人ではなかったと扱ってもらえる手続きです。
家庭裁判所で相続放棄の申し立てが受理されることで、
最初から相続人ではなかったとみなされます。
そうすると、借金などのマイナスの財産を相続することもありませんが、同時にプラスの遺産を受け取る権利も失ってしまいます。
そのため、相続放棄をするときには、慎重に検討していただいてから、申し立てる必要があります。
※「遺産分割」は相続人全員で話し合いを行って、それぞれの相続財産について誰が相続するかを決める手続きですので、裁判所へ申し立てる必要はありません。
また、「相続分の放棄」とは、遺産分割協議の時に、相続財産を何も受け取らないという意思表示することなので、正式な相続放棄とは違いますので、債務を放棄したことにはなりません。
相続放棄を家庭裁判所へ申し立てた場合、家庭裁判所は、受理できない特別な事情がない限り、原則的に受理してくれます。
この記事では、家庭裁判所に申し立てをしても相続放棄ができない場合について説明いたします。
相続放棄ができない場合
たとえば親が多額の借金がある状態で亡くなってしまったとしても、熟慮期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすれば親の借金を引き継がずに済みます。
しかし、家庭裁判所に相続放棄の申述をしても相続放棄ができない場合がありです。
単純承認をしてしまった場合
単純承認とは、相続の原則通りなんの条件も付けずにそのまま相続を受け入れるということを意味します。
多くの相続の中で単純承認が最も一般的な相続方法です。(民法920条)
つまり、相続財産のプラスの財産もマイナスの財産もそっくりそのまま受け取るということです。
被相続人に借金などの債務があれば、相続人は自己固有の財産で弁済しなければならなくなります。
そのため、単純承認をしてしまうと、自腹で被相続人の債務を返済しなくてはならなくなります。

920条(単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
単純承認をしたとみなされるケース
どういうときに単純承認をしたとされるのでしょうか。
具体的には次のような場合に当然に単純承認をしたものとみなされます。
民法921条
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
2.熟慮期間の経過
~自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に限定承認や相続放棄をしない。
3.背信的行為
~相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
民法第921条
「単純承認をしたのか・しなかったのか」の判断基準
家庭裁判所に相続放棄の申述をしても、単純承認を「した」と判断されてしまうと相続放棄をすることができなくなってしまいます。反対に単純承認を「した」と判断されなければ相続放棄をすることができます。
単純承認を「した」と判断されるかされないかで被相続人の借金を背負うのか、放棄できるのかが決まるとなれば、大きな問題となります。
裁判所に申述して相続放棄ができなかった場合の判例
1.相続財産を処分した時に相続人が相続開始の事実を知ることの要否
単純承認の効果が生じるためには「相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要する」として、相続人が処分時に相続開始の事実を知らなかった場合には、単純承認は生じないと判じた
(最判昭42[1967]・4・27民集21巻3号741頁)
→単純承認しなかったと判決がでたので、相続放棄することができた。
2.形見分け
その1
「一般的経済価値を有するものの処分は本号にいう処分に当たる」として、被相続人の衣類であっても一般的経済的価値を有するものを他人に贈与した場合は本号にいう処分に当たると判じた
(大判昭3[1928]・7・3新聞2881号6頁)
→単純承認したと判決が出たので、相続放棄することができなかった。
その2
処分の対象の一般的経済価値の有無は、相続財産の総額との比較考量によって、衡平ないし信義則の見地から相続人に放棄の意思がないと認めるに足りるかどうかによって判断される旨を宣言した上で、「和服15枚、洋服8着、ハンドバック4点、指輪2個を共同相続人の1人の所有として引き渡した行為が本条にいう処分に当たる」と判じた
(松山簡判昭52・4・25判時878号95頁)
→単純承認したと判決が出て、相続放棄することができなかった。
その3
既に交換価値を失う程度に着古した上着とズボンを元使用人に与えても、このことは本号(民法921条1号)に該当しない。
(東京高決昭37[1962]・7・19東高民事時報13巻7号117頁)
→単純承認しなかったと判決が出て、相続放棄することができた。
その4
相続財産を調査あるいは直接にも間接にも占有管理する状態にはなく、葬式の香典類に対しても手が付けられない事情のもとで、相続人が、多額にあった相続財産の内よりわずかに形見の趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコート、椅子2脚を得たことは本号による処分に当たらない。
(山口地徳山支判昭40[1965]・5・13家月18巻6号167頁)
→単純承認しなかったと判決が出て、相続放棄することができた。
3.相続財産からの葬儀費用の支出
その1
「被相続人に相当の財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない」として葬儀費用の支出は本号(民法921条1号)にいう処分に当たらず、墓石および仏壇の購入費用を相続財産から支出することも本号(同条同号)にいう処分に当たらない
(大阪高決平14[2002]・7・3家月55巻1号82頁)
→単純承認しなかったと判決が出て、相続放棄することができた。
その2
行方不明だった被相続人が遠隔地で死亡したことを警察から知らされた相続人が所轄警察署の要請に基づいて被相続人が所持していたわずかな所持金を被相続人の火葬費用等に充てたことは本号にいう処分に当たらない。
(大阪高決昭54[1979]・3・22家月31巻10号61頁)
→単純承認しなかったと判決が出て、相続放棄することができた。
4.生命保険金
被相続人の生命保険金の受領は保険契約に基づく固有の権利の行使であり、その保険金で相続債務の一部を弁済しても、相続財産の処分には当たらず、被相続人の自損事故共済金請求も、相続財産の調査をしたにすぎないから、処分には当たらない。
(福岡高宮崎支決平10〔1998〕・12・22家月51巻5号49頁)
→単純承認ではないと判決が出て、相続放棄することができた。
5.錯誤による期間徒過
「相続人が被相続人の消極的財産の状態について熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず、債権者(農協)からの誤った回答により、相続債務が存在しないものと信じたため、預金口座の解約・払戻しを受け、熟慮期間も経過したところ、相続開始から1年3か月後に債権者から7,500万円余の保証債務残額がある旨の通知を受け付けた事案。
裁判所は、相続人は被相続人の遺産の構成についての要素の錯誤に陥っているとし、熟慮期間が設けられた趣旨に照らし、相続人において上記錯誤に陥っていることを認識した後に、改めて熟慮期間内に錯誤を理由として、上記財産処分および熟慮期間経過による単純承認の効果を否定して、限定承認または放棄の申述受理の申立てをすることができる」として錯誤を理由に法定単純承認の効果を否定した。
(高松高決平20・[2008]・3・5家月60巻10号91頁)
→単純承認しなかったと判決が出て、相続放棄することができた。
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